本金という酒がある
日本酒は学生のころから飲んではいたが、本格的に銘柄を飲み比べるようになったのは6年くらい前か。
まだ日本酒初心者だったため酒屋に行くのは憚られ、デパ地下がメインの酒の購入場所だった。
当時東京にいた私は、仕事が終わるとよく銀座マロニエ通りをまろまろと歩いて、松屋銀座というデパートに向かった。
松屋銀座のデパ地下の日本酒売場はなかなか品揃えがよく、全国の銘柄がバランスよく置かれている。
日本酒初心者新春シャンソンショーであった私は、酒を選ぼうにも手掛かりがない。
どんな酒が飲みたいのか。
過去に飲んだ酒たちを思い返してみる。
なんとなく印象に残っていたのが京都の蒼空(そうくう)。
あんな感じの酒をまた飲みたいと思った。
店員さんに蒼空のような系統の酒がほしいとリクエストする。
「ボディが強くなくて米っぽいニュアンスのあるお酒ってことですかね〜」
なるほど、そのように表現すれば良いのか。
日本酒初心者新春シャンソンショーでシェイクシャック咀嚼であった私は、店員さんの語彙力に感心しながら、「はい、まさにそういう感じです」と適当な返しをして店員さんのレコメンドを待った。
そうして選んでいただいたうちの1本が本金(長野県諏訪市)だった。
※ ちなみに、他に勧めていただいたのが、鏡山(埼玉県川越市)と小左衛門(岐阜県瑞浪市)。
この2本もあわせて買ったが、どちらもとても美味しい酒だった。
本金を醸す酒ぬのや本金酒造は、1756年(宝暦6年)の創業。
「本当の一番(金)の酒を醸す」という思いが込められており、また、本金という線対称の漢字に「裏表のない商売をする」という思いが込められている。
家族で営む、小さな蔵である。
無知な頃に撮った写真なので、米の品種など必要な情報を全く写せてないですね…。
この本金という酒は、とにかくちょうどいい。
単品で飲んでも美味いし、どんな料理ともよく合う。
香りは、炊きたての白米のような爽やかな甘さの中に、瓜の淡い香りを含めたような感じ。
純吟ということもあり線は細めだが、米の旨味が穏やかに広がる。
抜きんでた特徴はないが、いつでもゆるゆると飲み続けられる。
中庸の美とでも言えばよいのか。
とにかく、ちょうどいいのである。
わかりやすく女の子に例えると、田舎で垢抜けない雰囲気なんだけど、目鼻立ちは整っていて、口数は少ない方で、友達のそばで静かに笑っている、黒髪ロング(ロングと言ってもそこまで長いわけでもない。むしろセミロングと言ってもいいかもしれないが、どちらかというと小柄なのでセミロングの長さでも実質ロングくらいの印象を与える)の16歳の少女、といった感じか。
いろんな日本酒を飲んでいくと、「仙禽といえば酸」とか「米の旨味を味わいたいなら神亀」といったように、秀でた特徴で銘柄をカテゴライズできるようになっていく。
しかし、そういった客観的な特徴ではなくて、もっと主観的な「ちょうどいい」酒の基準は、人それぞれ異なるだろう。
私にとって、本金が「ちょうどよさ」の基準になっている。
追伸。
先日、仙台で約5年ぶり本金を飲む機会があった。
本金らしさはそのままに、大学に入って少し垢抜けたようなひとつまみの華やかさが加わっているような気がした。
このときのことはまた別記事で。