浦霞お姉ちゃん
諸兄にとっては釈迦に説法だと思うが、一口に「お姉さん好き」と言ってもいろんなバリエーションがある。
グータラでダメ女なんだけど包容力がめちゃくちゃあるお姉さんのお世話をしつつも甘やかされたいとか、歳上なんだけど背も小さくて歳下感が強いお姉さんを愛でたいとか、正統派なしっかりしたお姉さんに叱られたいとか、皆さんにとっての至高のお姉さんがいるものと思う。
私は院卒なので、「歳下だけど社会人年齢は上」という先輩が理論上存在しうることになる。
私が就職し、最初に配属になった部署の隣の席の女性がまさにそのパターンだった
しかも美人で優しかった。
その歳下の先輩に、一時期仕事を教えてもらっていた。
この歳下のお姉さんの存在は、10年後、100年後も色褪せない私の思い出となるだろう。
※ 以前、ツイッターのフォロワーから「しらたまさんって、歳下のお姉さんへの憧れが強すぎて大学院行ったんでしたっけ?」と聞かれたことがある。いや、そんなことはないが。
日本酒テイスティングの世界にも「お姉さんみがある」あるいは「◯◯お姉ちゃん(* 丸には銘柄名が入る)」という表現があることは広く知られている。
お姉さんみがある銘柄の代表格といえば浦霞であるというのが定説である。
まず銘柄名からして姉だ。
太平洋の静かな浦に霞が立ち込めているその情景は、豊穣さと穏やかさと感じさせるだけでなく、茫漠たる神秘性と一抹の不可知性をたたえている。
瓜科の果実を連想させる着飾らない香り。
適度な甘味と旨味のボリューム。
甘やかしすぎない、しかし親密さのある、絶妙な距離感だ。
アリストテレスはソフォクレスの悲劇に人間の真理を求め、ニーチェはワーグナーの楽劇に伝統的な西洋とは異なる非-秩序を見出し、ハイデガーはゴッホの描くくたびれた靴に存在者が世界の中に位置付けられていく過程を見た。
浦霞を飲むとき、我々もまた、そこにお姉さんへの情景を感ぜずにはいられないであろう。