秋鹿を春まで持ち越してしまった
晩秋になったら飲もうと思って買っておいた秋鹿がまだ手元にある。
もう春やないか。
忘れていたのではない。
寒くなり始めた季節になるのを待って飲むつもりだったのだが、秋鹿のことが好きすぎて大事に大事に取っておいたら、いつの間にか季節が移り変わっていたのである。
ある女友達のことを恋愛感情とは別に大切に想っていて、その子が傷つかないように大事に守っているうちにその女友達を好きだという自分の気持ちに気づくんだけど、この気持ちを伝えたら相手を傷つけてしまうんじゃないか、この関係が終わってしまうんじゃないかと怖くなって、身動きがとれなくなってしまっていたみたいな、つまりはそういう話である。みんな『とらドラ!』を観よう。
秋鹿酒造(大阪府能勢町)の秋鹿は、いわゆる醇酒のカテゴリーには入らないものの、旨味が複雑でどっしりとしている。
夏のみずみずしい食材よりも、秋冬の食材に、しかもそれを甘辛く炊いたやつなんかにべらぼうに合う。
「秋鹿」という酒名は、初代・奥鹿之助の名から「鹿」、実りの秋の「秋」を取って付けられており、名実ともに秋映えする酒である。
さて、いざ瓶を取り出して気づいたけど、そういえばこの秋鹿は生酒だった。
しかも、2018年4月上槽ということは出荷時点ですでに1年熟成させているので、意図せずもう1年追加熟成してしまった。
ワインセラー(ワインは1本も入ってない)でずっと10℃くらいで冷やしていたから、おかしなことにはなっていないとは思うが、熟成厨が聞いたら発狂されそうだ。
秋鹿は、ラベルの情報が充実してて楽しいですね。
協会8号酵母は今回初めて飲む。
6号変異株で、多酸、濃醇酒向きの酵母らしい。
協会からの配布はだいぶ前に止まっていて、最近になってごく一部の蔵が使うようになっているようですね。
注いでみる。
いい照り。
香りも、老ね香が出ておらず問題なし。
問題ないどころか、バニラのような甘い熟成香がいい具合である。
全体的にいいメイラード感だ。 (熟成酒にはとりあえずメイラード感という言葉を使っておけばよいという風潮はいかがなものかと思う。)
口に含む。
酸が、旨味が、穀物感がじゅわんと押し寄せる。
秋鹿は生酛や山廃でも酒を造っているし、もともと酸のしっかりした味の設計だけど、この協会8号はたしかに酸が特に冴えている感じがする。
肴は、大根と手羽元の炊いたん。
甘辛な味と秋鹿の調和が完璧。
コロナウィルスが蔓延しようとも、なぜか全く関係ないティッシュが売り切れようとも、株のボラティリティが高まって私の資産が含み損を抱えようとも、秋鹿はこんなにも美味く、煮物との相性は変わらずここにある。